症例詳細
No.154 高血圧と眼(高血圧網膜症)
68歳の男です。左目の視力が低下して、一部分がはっきり見えません。また、物が歪んで見えるようにもなりました。網膜静脈分枝閉塞症と言われて、高血圧ではないかとも、指摘されました。
実は、数年前の健康診断で、高血圧を指摘され要精密検査となっていましたが、何の症状もないため、放置していました。目に注射をしたりしていますが、まだ元のようには見えません。血圧を下げろと言われています。関係があるのでしょうか。
高血圧症は、「サイレントキラー(静かな殺し屋とか沈黙の暗殺者などと訳されます)」と言われ、文字通り、何の症状も自覚しないまま、突然に脳卒中(脳出血や脳梗塞)を発症します。そして半身麻痺など重篤な後遺症が起こることもしばしばあります。脳内病変の場所によっては、寝たきりになったり死亡したりすることもあります。とても危険な状態です。網膜静脈分枝閉塞症などの眼底出血も、高血圧症の方によく起こる病気です。
40歳以上の日本人の網膜静脈閉塞症の有病率は、50人に一人程度です。この病気になる人で、高血圧がある人は、80%以上と言われています。この病気の視力低下や歪(わい)視(し)の原因は黄斑浮腫ですが、その浮腫と高血圧の有無には関連があります。網膜中心静脈閉塞症では、高血圧の有無が視力改善に影響するといわれています。網膜静脈閉塞症発症後、1か月以内が最も脳卒中発症リスクが高いことを報告している国もあります。
すぐにホームセンターなどで、血圧計を購入して、毎日2回2週間ほど測定しましょう。家庭では、135mmHg/85mmHgを超えることが多ければ、高血圧症として構いません。2週間ほどの測定結果をもって、内科へかかりましょう。高血圧症という診断がされれば、原因検索と治療が必要です。
医療機関では、140mmHg/90mmHgが基準ですが、これは白衣高血圧などが含まれるため、家庭で測定した血圧値は、5mmHgほど低くなるという考えに基づいています。塩分は、6g以内と少なめにして、バランスよい食事を心がけてください。禁煙は必須です。運動は、息を止めて力を入れるようなことではなく、早歩きやゆっくりとしたジョギングなどの有酸素運動がおすすめです。
逆に、高血圧症の方は、定期的に眼底検査を受けることをお勧めします。
2024年07月